加賀友禅とは
加賀友禅は京友禅、江戸友禅と並び、三大友禅のひとつで石川県金沢市で主に生産されています。この加賀友禅は、京友禅の生みの親である宮崎友禅斉が晩年になって加賀藩の地に友禅の技法を伝え、加賀友禅として発展しました。
加賀友禅について
京友禅が貴族文化の影響を受けているのに比べ、加賀友禅は武家文化の影響を受けています。そのためか、京友禅のような豪華な刺繍や金箔などは施されておらず、染のみで作られています。
加賀友禅には作品に作家名が記されていることから、全ての工程を一人でおこなうように思われがちですが、20種類以上の工程を一人でおこなうわけではなく、図案の作成から色ざしまでは一人でおこないますが、その他の様々な工程は多くの職人さんの手が加わります。
加賀友禅の歴史と成り立ち
加賀友禅は、今から約500年ほど前におこなわれていた梅染(うめぞめ)といわれる染めものが原点になります。梅染(うめぞめ)は、梅の皮や渋を使い布地を染める技法で、黄色がかった赤色に染まります。回数を重ねて染めると赤くなるので赤梅染とよび、さらに回数をくり返すとと黒色に染まるので黒梅染と呼んでいました。
その後、江戸時代の中頃に京友禅の創始者である宮崎友禅斎が加賀藩御用達の紺屋に移り住み、加賀御国染を改良した加賀友禅を作り上げました。晩年の宮崎友禅斎は、京友禅に着手したころと比べ、より深みのある加賀五彩と呼ばれる落ち着いた色彩を用いた写実的な草花や鳥を中心とした模様を描いています。
近年の加賀友禅は、五彩と言われる藍、臙脂(えんじ)、黄土、草、古代紫を基調とする紅系統を生かした多彩調で、デザイン性に富んだ作品が増えました。現代の加賀友禅作家は、加賀五彩に基づきながらも自身の個性を大事に、デザインや配色を決めています。
代表的な加賀友禅作家としては、人間国宝の木村雨山、二塚長生(ふたつかおさお)が知られています。
現在、加賀友禅は経済産業省指定伝統的工芸品(1975年~)に指定されています。
加賀友禅の特徴と技法
加賀友禅の特徴は、上記でも記載しましたが、加賀五彩と呼ばれる藍、臙脂(えんじ)、草、黄土、古代紫のを用いた写実的な草花模様です。その図案の中には虫食いやボカシといった技法が使われています。
虫食いの技法とは、葉が虫に食べられたように見せる彩色方法ですが、侘や寂が表現されています。また、先ぼかしと言って外側から内側に向かって薄くなるような立体感がある独特の彩色も加賀友禅の特徴です(京友禅は内側の中心が濃くなります)。加賀友禅は金箔や刺繍はほとんど用いませんが、落ち着いた華やかさがあります。
加賀友禅を存続するにあたって、次のような技法の継承を明確にしています。
・手描友禅について
- 色彩及び図柄は、加賀五彩を基調に絵画調とする。
- 下絵は、藍花を用いる。
- のり置きには、糸目のりを用いる。
- 黒色に地染をする場合には、伏せのりをしない。
- 刺しゅうをする場合には、加賀刺繍をする。
・手描き友禅の製作工程
図案構成、仮仕立て、下絵、糊置き、彩色、下蒸し、中埋め、地染め、本蒸し、水洗、脱水、乾燥を経て仕上げられますが、すべての過程で熟練の技術が求められます。
・板場友禅について
- 型紙は、柿渋を用い、手漉き和紙をはり合わせた地紙又はこれと同等の地紙に友禅模様を彫刻する。
- 型付けは、手作業により柄合わせをする。
・板場友禅の製作工程
板場友禅は模様を彫った型紙を使って染める手法で、図案作成、型紙彫刻、白生地板貼り、色合わせ、型づけ、伏せ糊、地染め、本蒸し、水洗、脱水、乾燥を経て仕上げられます。
型友禅や加賀小紋染とも呼ばれており、高度な技による緻密で繊細な模様が特徴です。
加賀友禅作家が担当するのは主に図案、下絵、彩色の3つで、全工程を担当するわけではありません。
近年では、金沢の自然や文化、古典を参考に現代的なメッセージ性を持ったデザインをする作家も増えてきようです。
加賀友禅の産地と証紙について
加賀友禅は、石川県金沢市で主に生産されていますが、加賀友禅作家として認められる技術者は、加賀染振興協会に落款を登録している作家です。加賀友禅作家になるためには、工房を営む師のもとで7 年以上の修行を積み、師匠と加賀染振興協会の会員1名の合計2名の推薦を得る必要があります。
・証紙について
加賀友禅作家が制作した着物には、必ず作家の落款がしるされています。落款制度は伝統工芸品である加賀友禅の品質の証です。また、加賀染振興協会が発行する加賀友禅証紙は、類似品防止と品質保持を目的とし、加賀友禅のきものと関連製品に貼付されています。証紙の色が赤なら手描き友禅、紫なら板場友禅になります。
いずれも本物のあかしなので購入する際には確認するようにしましょう。
まとめ
加賀友禅は加賀百万石の武家文化のなかで育った伝統工芸品です。
贅沢を良しとなかった背景もあり、京友禅、江戸友禅と並ぶ日本の三大友禅のなかでも、ひときわ落ち着きのある写実的な草花模様が特徴です。
加賀友禅は、もっとも染の心が生かされた友禅とも言えます。